「山田さん」
「?」
振り返ると、そこには真っ白いワンピースを着た女の子が僕のことを真っ直ぐに見つめながら立っていた。
「えっと・・・。」
「山田さん、ですよね?」
なにしろ、引っ越したばかりのマンションのゴミ集積所で、分別したゴミを間違えずに出そうとキョロキョロしていた時に不意に後ろから声をかけられたのだ。
振り返った自分は側から見たらさぞかし挙動不審だったに違いない。
「いや、えっと・・・あの、人違いだと思いますよ。」
「じゃあ、山田さん、じゃないんですか?」
「はい、その、ボク、山田じゃありません。
「・・・そうですか、山田さん、じゃないんですね・・・。」
今にも泣き出してしまいそうなほど、その顔には、はっきりと落胆の色が表れていた。
「はい、あの、ごめんなさい。」
なぜ、その時、自分がそんな風に彼女に謝ったのか、今でもよくわからないけれど、とにかく失望させてしまったであろうことに妙な申し訳なさを感じたことだけは確かだった。
「そうですか・・・、山田さんじゃないんですね。」
彼女はもう一度そう言うと、僕にくるりと背を向けて、とぼとぼと歩き出した。
「あの・・・」
なぜ、そこで彼女に声をかけようと思ったのか、これまた自分でもよくわからない。
足を止めたその肩越しに、
「山田さん、見つかるといいですね。」
と、なんとも間の抜けた言葉をかけた自分の情けなさは、今思い出しても頭をかきむしりたくなるほどだ。
コメントを残す