ミュージカルのボイトレにおけるメソッドの意義

セス・リッグス、そしてジョー・エステル

発声ボイス・トレーニングの業界では、さまざまな“最新メソッド”の看板が掲げられて、それを指導するインストラクターがそのメソッドに基づいて、それぞれのもとで学ぶ生徒さんたちを指導しています。

例えば、ポップスのジャンルを中心に世界的に最も有名なのは、おそらくマイケル・ジャクソンのボイストレーナーとして知られているセス・リッグス氏のSLS(Speech Level Singing)でしょう。

SLS指導者の育成もしており、ボイストレーナーとしてのテストをパスした人にはその認定ライセンスを与えて、システマチックに組織化されたネットワークを広げて、たくさんの生徒さんを指導しています。


セス・リッグスのSLSメソッドの教本“Singing for the Stars” 
(※セス・リッグスご本人のインストラクションに従って進めるトレーニングCD付き)

一方で、ミュージカルの世界でのメイン・ストリームと言えば、おそらく「トゥワング、ベルティング」といった用語で知られる、ジョー・エステル女史考案のエステル・メソッドではないでしょうか。発生とは言っても、実際に「トゥワング、ベルティング」のような用語を使いながら日常的にレッスンを受けている人でも、このエステル・メソッドという名前自体にはそれほど馴染みがない人も多いかも知れません。

その組織(?)が、SLSほどシステマチックに運営されていないのかも知れませんし、もしかしたら、舞台を中心にしたメソッドであることで、例えば、マイケル・ジャクソンのようにそのメソッドで学んだことがそのまま宣伝効果に直結するような人物が少ないのかも知れません。(その辺りの事情は、正直よくわかりません。)

とは言え、先ほども書いたような「トゥワング、ベルティング、ソブ」のような用語を用いて声を複数のクォリティーに分類し、科学的な根拠とともに声帯を中心とした発声器官のコントロールを学べるように系統立てて方法論として確立したという点で、非常に完成度の高いメソッドであることは確かです。

自分の研究の一環で読んでいる本に、このエステル・メソッドが紹介されていて何とも懐かしく嬉しく思いました。


Acting Through Song
(この手の本は何故かイギリスのものが多く、どうも英語が読み進めづらいのが難点…。)

というのも、かれこれ20年以上前、劇団四季とSKDが行動でこのジョー・エステル先生を招聘し、その際に何度かジョー先生のレッスンを受けていたんです。

それ以前、学生時代にはフレデリック・フスラーという人の、いわゆる「フスラー・メソッド」で発生を学んでいたので、若干声区に対する考え方の違いはあったものの、当時の日本には珍しい「メソッドで発声を学ぶ」スタイルにも違和感がなく溶け込めたのはラッキーでした。


フレデリック・フスラー著「Singnen(歌うこと)」の日本語版
(フスラー・メソッドで学び始めてしばらく経ってから、やっと翻訳本が出て泣くほど嬉しかった。当時の自分にとってのバイブル。)

自分の中で、「そうか、これはフスラーでいう3aのアンザッツだな。」などとポジショニングに関しての再発見もあったりして、逆に「今、あなたはそれをどうやって理解したのか?」と質問されて「実は、自分が以前学んでいたメソッドでこういう捉え方があって…」などと(もちろん通訳を介して)説明するような場面もありました。


今回Amazonで見つけたエステル・メソッドの理論書!
(kindleオンリーみたいです。)

メソッドというのは確かに具体的な作業レベルに落とし込んだ方法論であることが多いんですけど、特に声に関して言えば、目に見えない部分の多い、体感レベルでのトレーニングが中心になるので、まずは自分自身の身体について、ある程度神経支配が行き届いた状態になっていることが、とても重要なことです。

今はコロナ禍で、思い切り声を出して歌うこともままならない人もたくさんいるに違いありません。

そんな中でも、くさらず、あきらめず、自分の声と心と身体と向き合って、良い意味で日々神経を研ぎ澄ませ続けられれば、その先に繋がるんじゃないかなと考えています。

フスラー・メソッドを叩き込んでくれた森先生、そしてメソッドというものの可能性に気づかせて下さったジョー先生に、心からの感謝を。

 

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