今まで30年近く人に歌を教えてきましたが、実は誰にも教えていなかったメソッドがあります。
それは、自分がプレイヤーとして舞台に立っていた間も常に拠り所としていた方法です。
こう書くとなんだか妙に秘密めいて聞こえるかも知れませんが、別に隠していたわけではありません。理由は簡単です。
ただ…面倒くさかったのです。
なぜなら、この方法は通常歌のレッスンをするような部屋ではスペースが足りなかったり、動き易い服装に着替える必要があったり、一般的な「1レッスン1時間」みたいな時間の区切り方ではなかなか難しかったりするからです。(なので、いわゆる学校という枠組みには相応しくないのです。)
山本五十六の名言ではありませんが、
「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、繰り返さねば、声は変わらじ」
まさに、こんな感じ。
とにかく手取り足取り、見様見真似で身体の使い方を学ぶ、サルでもできるぐらい作業レベルの具体的な練習方法を真似ぶ(特に初心者には、学ぶ=真似ぶはほぼイコールです。)やり方です。
実際、学生時代、自分は週に3回ぐらいトレーナーのもとに通ってました。
ま、たまたま住んでた所の近くに師匠の稽古場があったからと、当時学生で今よりはるかに時間があったからできたことではありますが…。
それはレッスン室というより、道場であり、治療院でもありました。
初めてそこを訪れた時には、ドアを開けた途端飛び込んできた異様な空気に、
「ヤバいとこ来ちゃったかも…。」
とイヤな汗がたらりと流れたことを覚えています。
ただ、当時「歌える先輩たち」の複数がその先生の下で発声を学んでいたことが、自分を変えてくれるであろう大きな根拠となったので、躊躇なく飛び込みました。
で、週に3日。(笑)
何よりこの方法を知った本人が毎日コツコツと繰り返す必要があるのと、やってるうちに自己流に“ズレていく”ので、こまめにチェックしてもらうことで、上達のスピードを上げられたのですね。
ホント、師弟関係だったと思います。
師匠に対するある種のコミットメントがあったから結果に繋がった部分もあると思います。
こういう芸事は、ある程度長いスパンでその人と時間を共有することが前提です。
なので、「面倒くさかった」んですね。
それを今回は一日で教えます。
そんなことしたら、さらに面倒くさい気もしますが、じゃあ、何故その面倒くさいことに取り組む気になったかと言うと…自分自身、そろそろ人生の終わりがチラチラと感じられるお年頃になってきたことが第一の理由です…。
映画「Pay it foward」ではありませんが、「これを伝えることなく死んじゃうのはいかがなものか?」と思ったんですね。
師匠への不義理というか…恩返しとでも言うのかな。
後は、最近ミュージカルの世界でどんどん歌の上手な若者たちが増えてきて嬉しい反面、その一歩手前の、かつての自分のように「ほんのちょっとしたシンプルな方法」に辿り着けずに五里霧中、暗中模索、試行錯誤を繰り返す若者もいるんじゃないかと思うのですね。
他にも、シンガーとして歌が上手なのと、役を生きる俳優として歌が上手いのは別なような気がして、その違いはどこから来るからというと、呼吸、身体の使い方なのだろうと考えてるのです。
シアターダンスとストリートダンスが違うように、ストリートヴォーカルとシアターヴォーカルは違うって言うのかな…。
例えば、バレエでもジャズでもタップでも、シアターダンスのレッスンに行くと、まずはストレッチをし、バーレッスンやアイソレーションや3連の踏み込みなどの基本的なエクササイズ、ルーティンをやりますよね?
次にウォーキング、クロス・フロアーときて、最後に音楽に合わせた振付(センター)へと進むわけです。
ところが、歌のレッスンに行っても、やるのは発声練習を少しと、後はとにかくナンバーを歌っていうパターンがほとんどではありませんか?
もちろん、1レッスンの限られた時間の中でナンバー歌うことまでやろうと思ったら、どこか端折る(はしょる)しかないわけですけど。
これは、ある程度楽器としての条件が整っている(レッスン経験がある、もしくは才能がある)人にとっては何の問題もないことです。
目の前の先生のオーラだけでもガラッと変われる人たち。
でも、ダンスで言えばカラダのストレッチが全くきいていない人がいきなりパッセルルヴェでバランスとか、バットマンとかしたら…結果は容易に想像できると思います。
「でも、声は普段出してるから」
とあなたは言うかも知れません。
でも、
「普段歩いたり走ったりしてるから」
とは言わないですよね、ダンスのレッスンで。
況(ま)してや、元々が英語で書かれたミュージカル・ナンバーを歌う場合、そもそも骨格からして違う、英語を母語とする人たちと同じような声の出し方を普段していない我々(一部、バイリンガルの方や社交性に満ち溢れた方を除く)が、少々エクササイズめいた発声練習をしてナンバーを歌っても…そこには溝があって当然です。
なので、まずは日本語の日常からちょっと離れた音を出せる楽器(身体)作り、その調整を覚えてあげれば良いのです。
もちろん、例えばプロになったとしてもコンディションは毎日違いますから、そのコントロールをできないことにはコンスタントにパフォーマンスばできません。
最初は「上手くなるため」、次は「もっと上手くなるため」、更には「何があってもパフォーマンスの質を落とさないため」「観客にパフォーマンスの質を保証するため」、日々精進。
ダンスで言えばバーレッスンに相当するものをしっかりとした方法論で身につける。
門外不出の秘法、一挙放出致します。
Kobayashi Hitoshi
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