夢を売る人が意外と夢を持ててなかった話

インバウンドで考えたこと

仕事で毎週山梨に通うようになって3年目に入った。

山梨に行くようになって何より驚いたのは、訪日外国人観光客の数の多さ、いわゆるインバウンドの現状。

とにかく数が多い。

更には、ありとあらゆる(という風に感じる)国や地域から人が集まってきているというのが実感。

英語、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語…自分が何語か認識できる言語だけでもこれだけ。

何語かわからないものまで含めると…一体、何種類の言語が同じ車両内で飛び交っているんだというほど、移動の特急車両の中は人種のるつぼである…。

新宿駅も勿論すごいが、とにかく驚いたのは大月駅のJRから富士急への乗り換え改札。

半端なく狭い乗り換え通路に、これまた半端なくでっかいキャリーケースをゴロゴロと引きながら、かなりの数の半端なくカラダのでかい外国人観光客が、自分たちの目的地(言うまでもなく富士山、河口湖)に向かうにはどの電車に乗ればいいか、手持ちの乗車券でそのまま行けるのか、等々をそれぞれの言語で同行者と、日本人の感覚からしたら半端なく大きな声で相談しながら溜まっている。

そんな時、静岡県出身の身としては、心の中でついこうつぶやいてしまうのである。

「そうまでして、見たいか?富士山…。」

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「ロング・バケーション 」とはドラマのタイトルではなく、現実の話である

いや、もちろん富士山は素晴らしい。

富士山は美しい。

なんたって「富士は日本一の山」なのだから。

なので、ほんの好奇心から、電車で隣り合った海外からの観光客に、

“Sightseeing?”

なんて話しかけてみたりする。

先日も、こんなことがあった。

特急の自分が座る指定席に行ってみると、隣の席に小さな女の子がちょこんと座っている。

こちらが彼女の隣(自分が購入してあった指定席)に座ろうとすると、お菓子か何かを握りしめた小さな手をその席に伸ばし、それを阻止しようとする。

見たところ日本人ではなさそうなので、おじさんとしては精一杯の笑顔で、

“Your Father? Your Mother?” “Papa? Mama?”

と話しかけてみたが、不審者を見るような目でじっとこちらを見つめるだけ。

はて、弱ったな、どうしたもんかと考えあぐねていると、2・3列離れた席で女性が立ち上がり、これまたなんとも言えない表情でこちらをじっと見つめている。

かと言って、こちらに何かを話しかけるでもない。

そうこうするうちに通路を歩いてきた男性が、

“Excuse me,”

と言って、座席に。

要は、パパがトイレか何かで席を立った間に、自分がそこに到着していた模様。

ここで、こちらがいたいけな女の子に

「おらおら、ここは俺様の席だなんだぞ、お前何邪魔してくれちゃってんだ。」

と高圧的な態度を取っていたなどと勘違いされては、日本のイメージが悪くなると、これまた笑顔で得意の

“Sightseeing?”

を放ってみた。

更に訊いてみれば、この家族(離れた席の女性はやはり彼の奥さん、つまり女の子のお母さんであった)はタイからの旅行者で、ほとんど毎年のように日本に旅行に来ていると。

タイではこの時期にロング・バケーションがあるので、この時期に旅行をする、なんて今まで知らなかったことも教えてもらった。

ロング・バケーションですよ、ロン・バケ。

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「手持ちチケットが10枚を切りました。」

それで思い出したのが、かれこれ20年近くも前になるが、とある劇団でミュージカルの舞台に立っていた頃の話。

ある日、公演を終えて楽屋口を出たところで観劇後のお客さんに声をかけられた。

当時、毎週のように観に来てくれていた常連さん。

その頃は、専用の常設劇場は無い時代。

都内で、長くても1作品で3ヶ月が上演期間の限界だったので、熱心なお客さんはその上演期間に何度も足を運んでくれていた。

会話の中で、そのお客さんがなんと毎週大阪から東京に通って来ていた事実を知り驚いたのだが、次に彼女が発した言葉で更に驚いた。

「手持ちのチケットが10枚切っちゃったんです。」

「・・・いったい、何枚持ってたねん・・・。」

心の中に、嘘くさい関西弁に翻訳された下手な芝居のような声が響いた。

それに追い打ちをかけるように、彼女が言った。

「この前、ニューヨークに行って『Cats』や『オペラ座』も観て来たんです。」

いや、いくらバブリーな時代とは言え、もちろん全てのお客さんがこうだったわけでは無いし、こうだった筈もない。…恐らくは。

それはわかってはいるものの、正直そんな風に観劇三昧な日々を送る目の前のお客さんが羨ましかった。

「そうですかぁ、どうでしたか?ニューヨークのファントム。」

なぁ〜んて返しながら、心の中ではこうつぶやいていた。

「いいなぁ・・・俺も行きたい。ブロードウェイ・・・。」

夢を売る商売をしている筈の自分が、意外と夢を持てなくなっているのかも知れないと気づく現実に、なんとなく心が切なくなる瞬間だった。

「井の中の蛙大海を知らず」

一時期の日本では、

「リタイアしたら、貨幣価値の違うタイ辺りへ移住すれば悠々自適に生活していける」

みたいな話があったようだけど、今や全く逆転しているという現実に直面したのが、先日の特急車内での出来事。

自分の場合、タイと言っても

タイ料理の、例えばトムヤムクンや

あとは…ドラゴン・フルーツ?

ぐらいしか思い浮かばないのが正直なところで、上に書いたようなリタイア生活の記事を、

「ふむふむ、いいねぇ、タイのリタイア生活。」

なんて、お気楽な気持ちで読んでいた。

井の中の蛙どころか茹でガエル(カエルを水に入れて徐々に茹でると、カエルは気がつかず、気付いた時には手遅れになって茹で上がってしまうというお話)である。

インターネットをはじめとした技術革新、情報革命があって、世界は恐ろしいほどのスピードで劇的に変化し続けている。めちゃめちゃ便利になって、時間的にも以前に比べたらはるかに自由になっている。

筈なのに、相変わらず満員電車でぎゅうぎゅう詰めになりながら会社に向かい、海外からのインバウンド旅行者をどこか妬みのニュアンスを含みながら羨ましげに眺めていたりする…。

世界は激変している!

若者たちよ、この現状をしっかりと見据えよう。

視点を変えて街に出よう。

キーワードは、そう、

“Sightseeing?” だ。

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