ボイトレのバイブル〜歌声のひみつを解くかぎ〜

話をするだけのためならば、こんなこみいった仕組みは必要ではない。

歌を始めて40年。

クラシックの声楽科学生、歌手・俳優としてミュージカルの舞台に立ち、その後ボイス・トレーナーとして数えきれない人たちの声を導いてきた中で、自分自身の支えになっているメソッドがある。

それはフースラー・メソッドと呼ばれているもので、フレデリック・フースラーという人が確立したものなのです。

このメソッドのベースにあるのが、

どの人も歌うための肉体的資産は、生まれつき普通に持っている。

という考え方。

フースラーはこうも書いている。

大部分の人がそうであるように、天与の能力が邪魔をされ閉じ込められているのであるから、それは開放してやらなければならない。つまり「鍵をはずして」やるべきである。

発声訓練教師は、歌う器官に外部から付け加えるものな何もないこと、歌うのに必要なすべての素質はすでにその中に存在していることを理解しなければならない。このような素質を自由にするのは、その器官そのものに本来の機能を発揮させる以外には何もないこともまた理解しなければならない。

※フレデリック・フースラー著 /音楽之友社刊「Singen(うたうこと)発声器官の肉体的特質」より引用

これって、つまりは

ボイストレーニング(ボイトレ)というのはリハビリみたいなもので、声をトレーニングすることは人間の身体を自然が元々意図した状態に戻すこと

ってことです。

「人間誰しも歌うための能力はすでに備わっている。やるべきことはそれを開放して本来の姿に戻してあげることだ。」

ボイス・トレーナーとして人の声を扱う立場にある人間は、肝に命じておくべき言葉ですね。

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歌うことは感情の流出

歌うことー歌う行為それ自体ーは常に本源的には感情の流出なのだ。

ボイス・トレーニング(ボイトレ)というと、必ずと言っていいほど使われる言葉に“メソッド”がありますよね?

現に、自分も「フースラー・メソッド」っていう表現をしてますし。

メソッド・・・つまり、方法論。ノウハウと言い換えてもいいかも知れません。

演劇の世界でもたくさんの“メソッド(メソード)”があり、そのメソッドに沿って俳優養成を進める指導者もたくさんいるわけです。

しかし、ここで言われていることは、

歌うことは本源的には常に感情の流出なんだ。

ということ。

“ボイス・トレーニング(ボイトレ)”“感情の流出”って、考え方によっては、一見対極にありもののような印象さえ受けるんですけれど、そうじゃないんです。

ここ、とっても重要です。

フースラーという人は、元々歌い手(声楽家)だったのですが、発声を追求するあまり(?)後に音声医学博士にまでなった人なんです。

そして、それまで極めて主観的・抽象的だった発声指導のやり方を、(当時の)医学的な知識を基に発声を解き明かし、体系化したのですね。

いわば、ボイトレの始祖とも言うべき存在です。


「Singen(うたうこと)」こんな感じで書かれてます。

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実践が先、知識は後

もう一つ、このフースラーの理論で素晴らしいと思うのは、「まず聞く、それから知る」と書かれていること。

(歌手も指導者も)まず音像について始め(聞き分けることを覚え)、それから後に正確な知識へと進むことである。決して逆をやってはいけない。

「具体から抽象へと進むことを強く要請したい」と。

まずはとにかく身体を使え、実際に声を出せ、その音(声)を聞き分けられるようになれ、と教えているんです。

行動(実践)が先、知識が後

ボイス・トレーニング(のメソッド)って、ややもするとメソッド・オタクみたいな頭でっかちな人を生み出しがちです。

演劇でも多いんじゃないかと思うんですが、

「あのメソッドの特徴はああでこうで、このメソッドと比べるとこんなてんが違っていて・・・。」

みたいに知識はあるけど実践が伴っていない、みたいなパターン。

これはいけません。フースラー博士も書いています。

稽古とは一より習い十を知り、十より還る(かえる)もとのその一

この「Singen」、実はドイツでフースラー・メソッド(の指導法)を学んだ後に帰国して発声研究所を主宰していた師匠の下でボイス・トレーニングを受けていた頃には、まだ日本語版が出版されていなかったので、必然的に

行動(実践)が先、知識が後

の順番になってたのです。

師匠から「SIngen」についてはいつも聞かされていたので、日本語版が発売された時には大興奮。

当時の自分にとっては高額な本でしたが、少しも惜しくは感じず、バイト代を握りしめて買いに走りました。

あれから何十年という月日が流れましたが、歌手・俳優としてのキャリアを(かなりハードなミュージカルの舞台を)喉のトラブルもなく務めることができたのも、その後、ボイス・トレーナーとして数多くの作品やスタジオ、学校で、数え切れないほどの方に発生を中心にした歌のレッスンをさせていただけたのも、全てこのフースラー・メソッドに出会い、学んだことが土台にあるからだと実感しています。

発声(ボイトレ)は奥が深い。

いつまで経っても「マスターする」ことなど到底できません。

それでも、自分の「学ぶ」経験を通して知り得たこと、体得したことを伝えられる機会を作っていけたらなぁと、最近になってよく思います。

ジェダイの騎士、ルーク・スカイウォーカーの来訪を待つ、マスター・ヨーダのような気分です。

賢者よ、来れ。

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