ミュージカル・ナンバー歌い方のコツを教えます
これまでもワークショップや専門学校、大学の体験入学など、いろんな場所で伝えてきたノウハウの一つを今日はブログで披露します。
主に翻訳作品のミュージカル・ナンバーをうまく歌う“歌い方のコツ”。
もちろん、歌い方のコツと言ってもいろんなテクニックはあるんですが、今日ここで話すのは、そうした中でもミュージカルを勉強中の人でも比較的簡単に取り入れられるコツだと思うので是非お試しを。
英語は一つの音符に一単語、日本語だと一つの音符にたった一音
今現在、日本で翻訳上演されているミュージカル作品のほとんどが英語圏から発信されているものです。
そして、英語の作品を日本語に訳して上演される場合に、まず考えなきゃいけないのが、この一音符一音問題。
一つ例を挙げてみましょう。
“Think of me / think of me fondly / when we’ve said good bye.”
「ど う ぞ、お も い 出 を、こ の む ね に。」
※“Think of me” from「The Phantom of the Opera」
上が原語(英語)の歌詞、下が劇団四季版の日本語歌詞です。
英語の歌詞のスラッシュの部分で文が区切れ、歌う時には(ニュアンスも含めた上で)ブレスをします。
ところが、英語で既に“Think of me”を歌い終わってる時点で、日本語だとまだ「どうぞ」しか発することができていません。
そして、ブレスをすることになります。
つまり、例えは良くないですが、
「昨日ぉ〜、うちらぁ〜、マジで盛りがっちゃてぇ〜・・・」
みたいに、
文章の途中で細切れにブレスをしながら歌わざるを得ないことになる。
わけです。
想像して欲しいのですが、もし日本語の歌詞で歌っているクリスティーヌ・ダーエ役の女優さんが、この単語と単語の間のブレスを
- 声をスムーズに出すために鼻から息を吸い込んだり
- 口から息を吸って、その息の音がマイクを通して大きく聞こえたり
したら・・・どうでしょうか?
おそらく、彼女が何を伝えようとしているかをキャッチするのは至難の技ではないでしょうか?
もし、それを文字に置き換えたら、
お そ ら く か の じ ょ が な に を つ た え よ う と
こんな感じになるんではないかと思います・・・。
やる事はただ一つ「口を母音の形で置いておけ」
では、いよいよ「ミュージカル・ナンバー歌い方のコツ」です。
上の例で説明すると、
ど う ぞ / お も い で を / こ の む ね に
DO O ZO / O MO I DE WO / KO NO MU NE NI
赤文字で記したのが、
ブレスをする前のフレーズの最後の歌詞にある母音
青文字で記したのが、
ブレスをした後のフレーズの最初の歌詞にある母音
今回の例は、わかりやすく[ O / O ]のパターンですが、実際にはA / Oのこともあれば、I / Eなんてこともあります。
ただ、共通している事は、
もしこれを実際の言語として(繋げて)話している場合には、この二つの母音の間に、他の母音が挟まる事はないと言うこと。
要はブレスをする時に、口を、この「お」という母音の形のまま置いておければ、
一音符一音になった上に言葉のつながりを分断してブレスをしても、
そのナンバーを歌うキャラクターの意思を途切れさせる事なく伝えられる
ことになります。
逆に、この場合に「お」という母音のまま口を置いておこうとするとブレスができなかったり、次に続くフレーズの「思い出」の“お”がスムーズに歌えないとすると、
呼吸(特に横隔膜)のコントロールがまだ十分にできていない
ということになります。
人の感情は呼吸で伝わる
さらに重要なことは、本来人間の感情というのは
「何を言うか」よりは「どう言うか」で相手に伝わるもの
つまり、
コミュニケーションの受信者は、発信者の呼吸の変化でその感情や精神状態を体感する
ものなのです。
となると、先ほどのフレーズ間でとるブレスが、
前のフレーズで使ったぶんの息を補充するためのブレス
になったり、
次のフレーズを上手く歌うための準備のブレス
になっていたりしたら、相手役はもとより、観客は、
そのキャラクター(先ほの例で言えばクリスティーヌ)の心の動きなど感じられるはずもない
のです。
ミュージカルの中でナンバーを歌うそのキャラクターの心の振れ幅が大きければ大きいほど、聴き手はそのブレスでキャラクターの心の動きを、感情の変化を受け取り、共振し、共感するというわけなんです。
大切なのは“ Know How ? ”より“ Know Why ? ”
「歌を歌うときは呼吸が大切」なんて事は、今更言われるまでもなく、
舞台を志す人なら誰でも知っていること。
でもね、本当に大切なのは、
「じゃあ、なぜそれほどまでに呼吸が大切なの?」
と言う質問に答えられるかどうか。
これがクラシックの声楽ならば、まずは声ありき。
「楽器として、一つ一つの楽音としての声を発するために、その音を導き出す呼吸が貧弱であってはいけない」わけです。
じゃあ、ミュージカルは?
この答えを見つけることが、本当の「ミュージカル・ナンバーの歌い方のコツ」を自分のものにすると言うことになりますね。
ミュージカルは演劇であるとするならば、感情表現で使われるべきところ(=ブレスポイント)で即物的な“息継ぎ(=酸素の補給)”をしているなんてのは言語道断です。
だから、呼吸のコントロールを学んで、しっかりと身につけることが重要なんですね。
コメントを残す